紫式部 源氏物語 蓬 生(よもぎう)ー第十五帖

5006-2-1024x483.jpg

あさきゆめみし 新装版 1巻~7巻(完結)コミック全巻セット【 新品 】 大和版 源氏物語 光源氏 紫の上 藤壺 平安朝 平安時代 紫式部 古典 学習 大和和紀 講談社 mimi コミック 漫画 セット 全巻 - 三省堂書店
あさきゆめみし 新装版 1巻~7巻(完結)コミック全巻セット【 新品 】 大和版 源氏物語 光源氏 紫の上 藤壺 平安朝 平安時代 紫式部 古典 学習 大和和紀 講談社 mimi コミック 漫画 セット 全巻 – 三省堂書店

源氏の君が須磨で侘びしく暮らしておられました頃に、都にもさまざまに思い嘆く御方がありました。

常陸宮(ひたちのみや)の姫君(末摘花)は、父宮が亡くなられ、後見人もない身の上になられまして、大層心細くお暮らしでございました。思いがけず源氏の君と契ることになり、

援助を受けておられましたが、源氏の君が遠い須磨に去ってしまわれた後は、その頃の名残りで、しばらくは泣く泣く過ごしておられましたけれども、

年月が過ぎるにつれて それも尽きて、大層惨めな生活になってしまわれました。

もともと荒れていた御宮邸は狐の住み家となって、庭には蓬・雑草が生い茂ってしまいました。

スポンサーリンク

邸内の御調度などは大層古い物ですので、骨董好きの者が売却を申し入れてきましたが、末摘花にとっては父宮の御心が留まっているような心地がしますので、どんなに貧しくとも決して手放すことはなさいませんでした。

このような生活をしながら、世の人がする読経などはなさらずに、古歌や物語などを慰め事としてお過ごしになりました。ただ何事にも古風で格式高くおられました。

この末摘花の叔母が、落ちぶれて受領の北の方になっておりました。

「姉君は、身分の低い所へ嫁いだ私を軽蔑していたので、これからはこの哀れな姫君をわが娘の使用人として扱い、今までの恨みを晴らしたい……」と考えておりました。

やがてその夫が太宰府の次官になり、九州に下ることになりました。そこで末摘花に九州へ同行するよう言葉巧みに誘いましたが、末摘花は一向に承知なさいません。

「源氏の君がこの私を思い出して、いつの日かきっとお訪ねくださる……」と、一途に信じておられたのでございます。

この叔母は 末摘花に仕えていた侍従さえも連れて行くことに決めましたので、遂には皆、姫君を見捨てて去って行ってしまいました。

スポンサーリンク

絶ゆまじき筋を頼みし玉かづら 思ひのほかにかけ離れぬる

(訳)貴女を絶えるはずのない間柄と信頼していましたのに 思いのほかに遠くへ行ってしまうのですね……

冬に成り行くままに、末摘花は大層惨めになられ、独り悲しく過ごしておりました。
その頃、源氏の君が故院の御八講を催されますので、世の中は大騒ぎをしていました。

尊い高僧だけをお選びになりましたので、禅師の君(末摘花の兄)も参上されましたが、世間の兄妹と違って世間話さえもなさらず、

惨めな有様の妹をも平気で放っておかれますので「本当に心ない仏菩薩。これきりの縁なのだろう」と辛くお思いになりました。

卯月、源氏の君は花散里をお訪ねなさいました。その道すがら、常陸宮邸の前を通り過ぎますと、大層胸潰れる思いがして牛車を止めさせなさいました。

大きな松に藤の花が咲き匂って柳が大層しなだれていました。雨の滴が時雨のように降りかかりますので、惟光は源氏の君に傘を差しかけて、蓬生い茂った邸内に入りました。

スポンサーリンク

煤(すす)けた御几帳(みきちょう)の帷子(かたびら)(垂れ絹)を少し上げますと、末摘花が例のように大層恥ずかしそうに座っておりました。

ほんの少し身動きなさったご様子も、袖の薫りも、昔より感じがよいと見えました。

「ただ一途に私の訪れを待ちながら、荒れ果てた御邸で、どのように辛くお過ごしだったのだろう。こんなにも長い間、お見舞いに訪れなかったとは……」とご自分の情の浅さを反省なさいました。

そこで下人達を末摘花の御邸にお遣わしになり、生い茂った蓬を刈り払わせ、御邸の見苦しい所を修繕させなさいましたが、

これが人々の噂になるのは不名誉にお思いになり、ご自分からお通いになることはありませんでした。

スポンサーリンク

源氏の君は二条院に東院(ひがしのいん)を造らせ、末摘花をお移しして、お世話することになさいました。

末摘花に見切りをつけて散り散りに去って行った女房たちは、我も我もと争って戻って来ました。

古い宮邸に二年ほどお過ごしになりました末摘花は、その後二条院にお移りになりました。

源氏の君がお通いになることは難しいことですが、東院にお渡りの時にはお立ち寄りになり、決して軽視するような待遇はなさいませんでした。

あの受領の北の方が九州から上京して驚く様子や、侍従が姫を見捨てて下向してしまった事をどんなに悔いたか……等は、いずれお話しすることにいたしましょう。

( 終 )

スポンサーリンク







シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする