明石の姫君の御裳着が迫り、源氏の君はその準備に心を尽くしておられました。
正月末のある日、六条院にて薫物(たきもの)合わせをなり、二条院の御倉を明けさせて唐の品々など薫き比べをなさいました。
二月十日、冷たい雨が降って、御前の紅梅が今を盛りと咲いていました。
兵部卿宮と梅を眺めておられますと、ちょうど前斎院から、梅の枝に結ばれたお手紙と瑠璃の香壺が届きました。
「薫物の調合をお願いしたのです。この機会に御夫人たちの調合なさったものを試してみよう……」と仰り、宮にも判定をお願いなさいました。
薫合わせの後、御酒などを召し上りました。雨上がりの風が少し吹いて、梅の香りが優しく薫っておりました。
御裳着の当日、御裳をお召しになった姫君は大層愛らしくいらっしゃいました。源氏の君は、御夫人方が集まっておられますのに、
母・明石の上が参列されないことを、大層お気の毒にお思いでした。世間を気遣い、出席を見送りなさったのでございます。
春宮の元服は二十日過ぎに行われました。源氏の君は、明石の姫君が春宮に入内される時にお持ちになる冊子類を、大層立派に作らせなさいました。
墨・筆など最高のものを選び、筆の達つ人々に古歌などを書かせて、ご自分でも草仮名などを、誠に見事にお書きになりました。
花盛りの過ぎた頃、端近くに出て古歌などを思い巡らしておられるお姿は、誠に優雅で美しくおられました。
内大臣は明石姫君の入内を他人事とお聞きになりました。
わが姫(雲居の雁)が、可愛らしい女盛りに塞ぎ込んでいるのをご覧になり、
「夕霧が夢中だった時に、二人の結婚を許してやればよかった……」と
お嘆きでございました。姫君が涙ぐんでおられますと、夕霧からお手紙がありました。
「今も貴女を決して忘れておりません……」
( 終 )