マンガ日本の古典(5) 源氏物語 下巻 (中公文庫) – 楽天ブックス
その年の十二月、大原野への行幸がありました。
冷泉帝の御行列は卯の刻に出発なさいまして、朱雀大路を通って五条大路を西に曲がります。
今日は親王や上達部たちも特別に気遣いし、左右大臣や内大臣なども皆伺候なさいました。
世の人々は揃って見物に出かけ、六条院の御夫人方もその行列をご覧になりました。
西の対の玉鬘もお出かけなさいました。帝が紅色の御衣をお召しになり、凛としてご立派なお姿を拝し、大層心打たれておりました。
更に、この日初めて父・内大臣のお姿をも拝見なさいました。派手で大層ご立派に見えました。
翌日、源氏の君は玉鬘に手紙をお書きになりました。
「昨日は帝のお姿を拝見なさいましたか。宮仕えについては、その気になられたでしょうか」とありました。
何はともあれ、まず玉鬘に御裳着(もぎ)(成人式)の儀式をさせようとお思いになり、御調度や立派な品々を心を尽くしてご準備なさいました。
内大臣にも、この機会に全てお知らせしようとお考えになり、裳着の儀式の御腰結役を内大臣に務めて頂こうと、手紙を書きなさいましたが、
大宮のご病気を理由にお引き受けなさいません。源氏の君は「どうしたものか……」と思案なさいまして、お見舞いかたがた三条院にお出かけになりました。
大層目立たない様に気遣いなさいましたのに、行幸に負けないほど厳めしくご立派ですので、大宮はご気分の晴れるような気がして、お身体を起こしてお話しなさいました。
源氏の君は、「実は、内大臣が世話なさるべき姫君を思いがけなく捜し出しまして、今、私が引き取りお世話申し上げております。入内を考えていますので、裳着の式などについて、
内大臣にご相談申し上げたいと存じますが、何かの機会がなくては、お目にかかることもできません。大宮からそうお伝え頂けませんでしょうか」とお願い申し上げました。
そこで大宮は「六条の大臣(おとど)がお見舞いにみえていますので、こちらにお越しになりませんか。逢って申し上げたい事もあるそうです……」とお誘いなさいました。
久し振りのご対面に、二人の大臣はつい競争心も起こるようですが、しみじみ昔話をなさいますうちに、すっかり打ち解けなさいました。
昔、行方知れずにした夕顔の娘のことを、源氏の君が話されますと、内大臣は大層涙をお流しになりました。
夜が更けて、それぞれ退出なさいました。内大臣はすぐにもわが娘(玉鬘)に逢いたいとお思いになりましたが、世間の評判を気遣い、源氏の君に全てお任せすることになさいました。
年が明け二月になりました。裳着の日、儀式は慣例どおりに進められ、又とないほど立派に総てが整えられておりました。
源氏の君の計らいで、内大臣が腰結の役を勤められましたが、わが娘愛しさに涙を堪えきれないご様子でございました。
「言葉に言い尽くせない程の感謝と共に、今までお隠しになっていた恨み言も、添えずにいられません……」と申されました。
玉鬘に想いを寄せていた方々も、次々にお祝に参上されました。
蛍 兵部卿宮は、「今日からはもうお断りになる支障もないでしょうから……」と、ますます心を込めて結婚を申込なさいましたが、
「帝からの御内意もありますので、他の話はまた後に……」とお返事なさいました。
内大臣の娘、あの近江の君が玉鬘のことを聞いて、
「父君は姫君をお迎えのようですね。その方が尚侍(ないしのかみ)になられると伺いました。
宮仕えすれば、いつか私にもそのようなお情けもあろうかと、女房たちの嫌がる事すら、自ら進んでやりましたのに……」と大層妬ましくお思いのようでした。
内大臣は大層お笑いになって、
「そう言ってくだされば、誰より先に奉上したものを……、今からでも申文をお書きなさい。長歌など入れて……」とからかいなさいました。
御几帳の影にいた女房たちは、死ぬほど可笑しく、笑いを堪えておりました。
内大臣も、「気分の晴れない時には、近江の君をからかうと気が紛れる……」などと仰って、ただ笑い者にしておられるのでございます。
( 終 )