【廃盤(廃番)特価品】ハマナカ 源氏物語 並太 アクリル ポリエステル hamanaka1玉価格 毛糸 – クラフトケイ
源氏の君は二条院に東院をお建てになりました。西の対に花散里をお移しになり、東の対を明石の君のために……と御心に決めておられました。
更に北の対を大層広く造らせて、御几帳などで仕切りをして、今まで契りを交わした姫君たちを、集めて住まわせようと心遣いなさいました。
明石に宛てたお手紙が途絶えることはありませんでした。
「御子が生まれた今は、京に上るように……」と度々仰せになりましたが、明石の君はご自分が受領の娘であることを惨めにお思いになり、
「このまま都に出て、宮中の女御たちと一緒に暮らしても、低い身分が露見するだけで、人々に見下され どんなに悲しい思いをすることでしょう」と思い悩んでおられました。
けれど幼い姫君がこのように寂れた海辺で成長し、源氏の御子として数にもいれられないのは可哀想ですので、源氏の君に逆らうことなど出来ません。
父・明石入道は京の大堰川近くにある荒れ果てた御邸を思い出し、ここを修理して、姫君たちを上京させることを思い立ちました。
美しい松陰に建てられたこの寝殿は、流れの畔にあり山荘の趣を見せていました。
源氏の君は惟光の朝臣を遣わせ、明石の君がお住まいになるのに相応しい様子に、心尽くして準備させなさいました。
明石の君は、「もう逃れようもなく、今は京に上るしかないのか……」と悲しくおられました。
秋も深まりました。別れの日に旅立つ者は誰もが皆、涙を堪えきれずにおりました。
明石の一行は密かに舟で京に上られました。
大堰の辺りは趣深く、明石の海辺に似ているように見えますので明石の君はなお一層悲しくお思いになりました。
源氏の君がお渡りになることはないまま、空しく月日が流れました。明石の君は大層寂しくなられ、源氏の君が明石の別れの日に、
形見として置いていかれた御琴をお弾きになりますと、松風が荒々しく吹いて、琴の音は一層寂しさを募らせるようでした。
身をかへて ひとりかへれる山里に 聞きしに似たる松風ぞ吹く (尼 君)
(訳)尼姿となって一人帰ってきた山里に 昔聞いた松風が吹いている……
一方、源氏の君は明石の君に逢いたいと、ただ一途に心乱れ、
「嵯峨野の御堂に立ち寄ります……」と紫上にご挨拶して、ようやく大堰の御邸にお渡りになりました。
久し振りにお逢いになりました明石の君は誠に美しく、ますます愛しく見えました。
更に幼い姫君は、愛嬌づいて可愛らしくなられ、「この姫君こそ優れたわが御子……」とお思いになりました。
その夜は一晩中明石の君に末長い愛情をお約束なさいまして、仲睦まじく語り明かされました。
次の日は京にお帰りになる予定でしたので、近くの桂院に供人が出迎えに参りました。
源氏の君は姫君のお気持を思って心苦しくなられ、戸口で立ち止まりますと、姫君が愛らしく手を伸ばして後を追いますので、「しばらく逢えないのは辛いものだ。ここは京から何と遠いことか……」と仰せになりました。
明石の君が悲しみに耽り、御几帳の蔭からお見送りなさるご様子は、誠に美しく、内親王のように気高く見えました。
供人に促されて源氏の君は桂院に移られました。月が華やかに差し出る頃には、酒杯も巡り、琵琶・琴に加えて笛の合奏が始まりまして、大層風雅な時をお過ごしになりました。
二条院にお帰りになりますと、紫上に山里の話などをお聞かせなさいました。
「本当は可愛い姫に逢ってきたのです。公に、わが御子として扱うのも憚られるのですが……無邪気な愛らしい姫なので見捨てておけません。
ここ二条院で、貴女の手で、御袴着(成人式)をしてやりたいのです……」
紫上は、「その姫を私が引き取り、この手に抱いて大切に育てたい……」とお思いになりました。
しかし幼い姫君を手放す明石の君にとっては、どんなにか辛いことでございましょう。
( 終 )