「発酵食品」のブームが続く本当の理由はズバリこれです!
もくじ
なぜ発酵食品ブームが続くのか
新型コロナウイルスの脅威で、免疫力を上げて感染を防ぐかもしれないと、注目を集めた食の一つが発酵食品である。
実は、すでに9年もブームが続いております。そこへここ2~3年、海外の新しい潮流からも影響を受け、さらなる盛り上がりを見せているのです。
多くの雑誌は発酵特集を組み、レシピ本、メカニズムを解説した本などが次々と発売された。発酵をキーにしたレストランも人気を集める。なぜ発酵食品が、それほど注目されるのだろうか。
海外からの流れは、2019年の秋に放送され、人気を集めた連続ドラマ『グランメゾン東京』(TBS系)にも出てきた。ミシュラン三つ星を狙うフランス料理店「グランメゾン東京」のライバル店、「gaku」の料理を監修したのが、ミシュラン二つ星の東京・飯田橋「INUA」なのだ。
ここ10年、世界のグルメ業界を席巻したコペンハーゲンのレストラン、「noma」にいた料理人が率いる、発酵技術を駆使したレストランである。
nomaはグルメの世界で、「イノベーティブ」と分類される、国籍に囚われない創造的な料理を出す店に分類される。
『料理通信』2019年5月号によると、同店は2011年以降、発酵研究に力を入れる。もともと北欧には、長い冬に食料を持たせるための発酵文化があった。
「発酵デザイナー」の登場
日本でブームに新しい局面をもたらした要素は、「発酵デザイナー」を登場だ。
「発酵仮面」と自らをタレント化させた農学者・発酵学者の小泉武夫さんの弟子で、発酵のメカニズムについてかみ砕いて分かりやすく解説し、事例も豊富に知っているため、メディアの引っ張りだこになっている。
流行をけん引する高級料理の世界で、発酵の新しい力を引き出すレストランが誕生する。一方で、身近な醤油や味噌がどのようにできているのか、
日本にはどんな発酵食品があって、発酵とはどういう現象なのか、といった分かりやすい話をする小倉さん。いわば、最先端と底辺の両面から流行を広げる動きが、ブームの層を厚くしている。
もともとあった発酵ブームは、2012年から始まっている。きっかけは、塩麴という新しい発酵調味料がこの年紹介されて、ブームになったことだ。NHK『きょうの料理』でも、塩麴を開発した麹店女将の浅利妙峰さんが登場し、他のテレビ番組や雑誌でもくり返し紹介されていた。
その後味噌作りがブームになる。各地で味噌作り教室が開かれ、自作する人が増える。手作り味噌は、作ってみると案外簡単で、発酵を止めてから販売される市販の味噌にはない味わいがあるように感じられる。
買うものだと思っていた味噌を自分で作れることに感動する人もいるし、発酵のプロセスを確認して楽しむ人もいる。そして、材料とプロセスが分かる安心感もある。
2013年に和食がユネスコの無形文化遺産に登録されて、注目が集まった影響もあり、日本の多種多様な発酵食に関心を寄せる人が増えた。
全国の小さな蔵元が作る醤油を、100ミリリットル瓶で手軽に試せる2008年スタートの職人醤油や、2011年に木桶を自ら作る「木桶職人復活プロジェクト」を立ち上げた小豆島のヤマロク醤油など、
醤油の役者も揃った。びっしりと酵母がついた様を見られるヤマロク醤油の蔵は絵になるので、蔵元の山本康夫さんもメディアの引っ張りだこだ。
発酵ブームが続く理由は戦い始めた2011年から
発酵ブームが続く理由は、2011年の時代背景を考えると見えてくる。それは東日本大震災が起こり、福島第一原発が爆発した年である。
私たちは今、コロナウイルスという目に見えない敵と戦っているが、2011年は、放射能という見えない敵と戦い始めた年である。
あのときも、免疫力を上げる、と味噌や発酵食品が注目された。塩麴ブームは、それが発酵食品で体によさそうなイメージが強かったことも、ブームになった要因と思われる。
発酵食品は、微生物が活動して作られる。味噌を自分で作るということは、眼には見えないが微生物を飼うことでもある。
生きているものに対する愛着が、味噌をより魅力的に見せる。大豆と塩が麹の力で変化するさまも興味深い。
命が危険にさらされ、被害者がたくさん生まれた状況下、命を感じさせる発酵食品に惹かれていく人は、きっとたくさんいた。
手作りの発酵食品や、自然の力を利用して食品添加物などに頼らないイメージの蔵元の映像は、食に安心・安全を求める傾向が強くなった人々に安心感も与えた。
ブームに先立つ2000年代は、BSE問題や数々の食品偽装事件が起こり、食品メーカーの製品、あるいは外国製品に対する不信感が募った時代でもあった。
そんなとき、材料がシンプルで余計なものが入っていない、しかし発酵によって栄養素が分解され、複雑な味を持つ発酵食品は魅力的に映る。
また、手作りや職人の手仕事は、インターネットが普及して、見えないところで動く社会に不確かさを感じている人たちにとって、確かな手応えを感じさせる側面がある。
手作りや手仕事への関心の高まり
実は、社会が複雑化して、手作りや手仕事への関心が高まる現象は、これまでにもくり返し起こってきた。
19世紀末~20世紀初めのイギリスで起こったアーツ&クラフト運動などヨーロッパの手仕事再発見のムーブメント、その少し後に始まった日本の民芸運動は、産業革命が背景にあった。
日本ではまた、高度経済成長期後の1970~1980年代に、主婦を中心に手作りブームが起こり、キルトや編み物、焼き菓子・パン作りなどが流行った。
そしてIT革命が起こった2000年代のスローフードブーム後に広がった手作りブームは、2010年代に発酵食品への関心に発展する。