あさきゆめみし 新装版 1巻~7巻(完結)コミック全巻セット【 新品 】 大和版 源氏物語 光源氏 紫の上 藤壺 平安朝 平安時代 紫式部 古典 学習 大和和紀 講談社 mimi コミック 漫画 セット 全巻 – 三省堂書店
五月雨(さみだれ)の空が珍しく晴れた雲間に、源氏の君は久し振りに花散里の御邸をお訪ねになりました。
昔、麗景殿(れいけいでん)の女御(にょうご)には、故桐壺帝の華やかなご寵愛こそありませんでしたが、源氏の君は、親しみ深く心惹かれる方……と
思っておられました。花散里はその妹君にあたり、以前に少しお逢いになりまして、今も愛しくお想いでございました。
その道すがら中川の辺りで、木立など風情ある家から琴の音が聞こえてきました。
ふと耳に留められた源氏の君は、昔お通いになった女君の家だとお気付きになり、胸をときめかされました。
ただ通り過ぎる訳にもいかずに躊躇(ためら)っておられます時、何と、ほととぎすが鳴いて飛んでいきました。
例の惟光(これみつ)を邸内に入れ、その姫君と逢えるように話をつけさせましたが、姫君はお逢いになりません。
源氏の君も、「他に男でもできたのなら、仕方もない……」と諦めなさいましたが、姫君はひとり、心の中で残念に思っているのでした。
目指す花散里の御邸は、桐壺帝が亡くなられ、すっかり世の中も変わってしまった今は、人々の訪れもなく、静かな佇まいでございました。
源氏の君が女御(にょうご)のお部屋で故院の話をしておられますと、次々に昔のことが思い出されて悲しくなり、お泣きになりました。
折も折、ほととぎすが先程と同じ声で鳴きました。
橘の香を懐しみほととぎす 花散里を訪ねてぞとう
源氏の君は西側の部屋に忍びやかにお渡りになりました。
花散里の姫君にとっては、久し振りのご訪問に加え、比類ないほど美しい源氏の君のお姿ですので、
長くお忍び通いの絶えていた辛さも、すっかり忘れてしまうようでございました。
( 終 )