紫式部 源氏物語 夢浮橋(ゆめのうきはし)ー第五十四帖
薫大将は比叡山にお着きになり、御経や仏像等の供養をさせなさいました。その翌日横川にあの僧都をお訪ねになりました。 「わざわざこんな山深く、よくおいで下さいました……」と、僧都は大層恐縮して、お迎え申し上げました。 周囲の人々が静かになりました頃、大将は小さな声で、「小野に身を隠している女に、戒律をお授けになったと聞きましたが、本当ですか。まだ年も若く、親などもいた人で、私がよく知る人なのですが、行方知れずになり、死なせたように恨み申す人がいますので、確かめたく思いまして……」と申されました。